感動系だが変に重すぎなくて良いバランスだと思った。
橋本環奈さんの詩凪ははまり役。
可愛過ぎる。絶世の美女で映らなきゃいけないシーンで間違いなく可愛くて映ってくるのが最高に詩凪本人だった。
パンフによると相沢先生は環奈ちゃんのキャスティングが意外だったそうで、驚いたくらい自分的にはぴったりだった。

原作とは割と違う作りだけど、エッセンスを上手く落とし込んだ青春物語になっててとても良かった。
そもそも原作の小説の神様 が、何かを作る人達には刺さる物語だと思う。結構大胆に作り変えてて、分かりやすく短時間に収まっていたと思う。
モノクロだった世界にこちらが慣れた頃、一也が詩凪のプロットを聞いて世界が鮮やかに軽やかになる描写がとても綺麗だった。

原作とは違うキャラだったが、九ノ里部長が凄く魅力的で人間味があって大好きになった。
一也が詩凪に叩かれた後ずっと痛そうに頬を押さえたり、ピントも合っていないのにずっとちゃんとコミカルな演技をしていたり
流司くんのアドリブだろうと思われる細かいお芝居が笑えたし、
明るくてしっかり男臭くて傍からみたら本当に、なんでもできて「悪くない高校生活」。
なのに一転して自分の書いたノートを破る苦しい表情に
胸が引き裂かれそうになった。
人に見られていないだろう時の表情、その一瞬で人となりを表現して引き込むところが相変わらず天才的で。

これまでずっとひたすら明るく描かれていただけに
4章でこのような設定を持ち出されたら苦しくて仕方なくなった。
そばにプロが2人もいて、1人は親友で。
嫉妬したり嫌な態度を取ったり、逆に媚びたりするようなこともなく
自分の思いは外に出さずに部長として親友として寄り添ってあげる姿が優しい。
「いくらお前みたいに面白い小説が書けなくてもな、俺はできることは全部やる」
一也にはわからなかっただろう彼の心の奥底の機微が、
一瞬の言い淀む表情に出ていて素晴らしい。
「悲しい時苦しい時勇気が足りない時そんな時にこそ俺はこの本を読む。俺の好きな本だ」
どんなにか悔しく思ったこともあっただろうに、それでも本当に一也の書く本が好きだし、一也自身のことが好きなのだろう。
「悔しいけどなめちゃくちゃ面白いぞ」が、本心なのだろうな。
一也を見送るなんとも言えない表情に複雑な想いが溢れていて苦しくなったし、
九ノ里も好きを諦めないで、報われてほしいと思った。

流司くんなら原作通りにだって勿論演じられただろうが、脇役で陽気に見えながら、彼には彼の物語があるのが伝わるオリジナルの九ノ里は素敵なキャラに仕上がっていて
正に、『小説の神様』ではなく『小説の神様 君としか描けない物語』だった。
たとえばちはやふるの太一もそうだけれど
周りからは恵まれてるとかすごいとか思われてるのに自分では器用貧乏だと思っていて、
一番欲しいものが手に入らない苦しさがとても刺さる。悩みを告白しても贅沢と言われて、そうだよなと笑って口を噤んでしまうようなタイプの痛み。

舞台挨拶で環奈ちゃんが好きと言っていた「好きを諦めない」、私も好きだけれど、
パンフ読んだら部長のテーマがないものねだりなのはちょっと寂しかった。
勿論ある物に目を向けなよというのも正しいのだが、
部長はちゃんと目を向けていて、充実してると言い聞かせてはいるのが切なかった。

最初に一也が言っていたけれど
売れ線狙いの浅い作品や
なんでこいつがプロとしてやってるんだって思うような作品はなぜだかあって、見る度がっかりするのだが、
それが売れるならそれはそれで正しい訳で。
だが、同じ世界にびっくりするくらい凄い作品も確かにある。
それに出会うのも生み出すのも、「好きを諦めない」からこそなのだろうと思う。