評議会からの誰かからのレゴシ視点で
犯人が身近にいることを示す構図が秀逸。

蛇がこの世界観の中では四肢がなく羞恥を覚える種別
という設定とは驚いた。
章タイトルも「イブは林檎を食べたから」で、
イブをそそのかして手足をもがれた蛇ということなのだろう。

「自分の強さに責任を持つ」。この考え方はとても好きだ。
上橋菜穂子先生の『鹿の王』を思い出す。
負担でもあろうに、責任を持とうとするレゴシは本当に偉い。

無法地帯だった裏市を変える。
ルイの存在は最早単なるシシ組のリーダーに留まらぬ勢いだ。
イブキがサラダを買って来てくれるのは嬉しかったが
素直に受け取れないルイの気持ちも分かる。

ジュノが会いに来るのは驚きだった。
いくら肉食でも女の子一人で裏市へ来るなんて。
流石ジュノである。
煙草はシシ組のルイとしてのアイテムなのだろう。
大事な女一匹守れない無力さ。
権力にも本能にも勝てない男が学園のヒーロー?
嘘はこりごりだというセリフが胸にくる。
「実態をベールで隠して道徳と正義の象徴を担うのがシカの俺の役目だった
嘘と弱さに塗れて頂点に立つ意味を見出せなくなったから学校にいる意味はない」
そう言われると、学校をやめたのもシシ組に入ったのも
とても納得がいってしまう。
捨て身になったというのではなく、
悪に染まったのではなくこの社会を受け入れ
肉食獣の本能を肯定して本当の意味で今度こそ強くなりたいという強い意志。

ルイとジュノが踊る姿は愛らしく切なく、
2人で踊るこの時間も嘘になるの
生きる道を決めるのは社会じゃない、自分よ
と泣くジュノの涙が美しかった。
私は自分で選択し続けると憎まれ口を叩くように言って
立ち去るところが本当に可愛らしいし、
案外ルイには彼女のようなパートナーが合っているのではと思う。

イブキが「ボスと呼べ」と仲間に怒るシーンも
あまりにも恰好良い。
こういう男がルイをここまで信用してくれたのは
とても大きいし、それだけルイに魅力と可能性があるのだ。

ピナのキャラクターがとても面白い。
悟り世代で、先輩に対する態度もなっていないが
ある意味分け隔てもなく忖度もないのが気持ち良い。

肉食部員の集まりで空気が悪くなるかと思いきや
レゴシも他のみんなも男子高校生らしくて面白い。
アオバが
お前のは恋愛というより信仰
恋愛くらい普通に楽しめよ
と言うのはかなり腑に落ちた。
流石長く付き合っている彼女がいる男は違うというものだ。
レゴシが風邪気味で、タイマンはるなら今がチャンス
というセリフが挟まれている構成も心憎い。

俺なら守れると愛おしく思うハルに
今でもルイ先輩が好き? と訊いてしまうレゴシ。
折角キス出来そうだったのにと思うが
生きてくれるだけで嬉しいというのも分かるし
彼にとって特別な草食動物はハルちゃんだけではないのだ。
俺の恋は君への祈り。

テムとのエピソードが可愛らしい。
草食が肉食に親しくしてくれるだけで特別というのは
確かにそうなのだろう。信頼していなければ
首元を触らせるなんて恐ろしくてできない。

強くなって力の差が開いてできることがなくなっていくジャックの気持ちが悲しかった。
ずっとどこかで覚悟はしていたのだろう。
強くなればなるほど不幸になるお前を見てられない
という言葉は泣ける。

ゴウヒンを頼るのは正解だと思う。医者なわけだし。