螺旋プロジェクトの一冊。
プロジェクトの他の話も読まずに、陳腐で安易なプロジェクトだとするレビューを見かけたが、大変残念である。
海族と山族の対立という根本の設定は面白く、
作家によってここまで切り口の違った物語を鮮やかにみせてくれるものかと
驚嘆するばかり。

朝井さんらしい印象的なタイトルで、
閉塞感のある中で生きている若者の様子もリアルに感じられる。
章ごとに主人公が変わり、時も遡ったり戻ったりしつつ
物語の謎が解き明かされていく展開で先が気になる描き方だ。

正しい喜びばかり書かれている漫画やアニメが楽しめない、
ニュースで若者の恋愛離れとか少子化とか言われる度
お前のせいで日本は駄目になっていくって言われている気持ち、
というのが、自分にも覚えがある感情だった。
それで罪悪感を覚えて、
新しい命が作れないなら死んでいく命を救えばいいのかもという結論に至るめぐみがなんだか痛々しい。
生きる意味をそこに見出したくて、頼まれてもいないことに必死になってしまう姿。
誰しも、とは言わないまでも、学生時代なんかに思い当たることがある人は
結構いるのではなかろうか。

特に後半の智也の言葉で印象的なものが多い。
けんかするかもしれないから初めから離れておくって、ちがうと思う
と子供ながらに考えているところが偉いし、
本当に立ち向かうべきものがあるとして、それは、目の前の誰かではなく、向い合う二人の背後に広がる歴史のほうなんだよ、きっと。
と思っているところが良いなと思った。

うまくいかないときには、一般的にはまず話し合おうとするものだが
いつかは分かり合える、なんて綺麗事からではなくて
諦めたくても逃げられないことを知っているから、というのもリアルだった。
俺をこんな体にしたお前を一生許さないと叫んだところで、
”歴史”はもうそこに在る。

海族と山族の話は、”言い訳”としても秀逸だと思う。
なぜなのか理由はよくわからないが「馬が合わない」けれど
努力して仲良くしようとして傷ついている人間にとっては、
種族が違うから合わないのは仕方ない、という理由は救われる気がする。
その前提をわかった上で、それでも向かい合おうと思うところが尊い。