ネタバレあり

「君のセンスと実力を見たい」と言って、詳細のリクエストをしてくれない客。
実際いたら迷惑この上ない。
自分の好みを言わない癖に、好みじゃないものが仕上がってきたらあの靴屋は駄目だ、と言いそうな
上から目線の客である。

黙って持ち帰ってレントゲンまで撮って
ステッチが多いという意味のわからないクレームを
つけにくるところが気持ち悪い。
理由を聞かせろというだけだからクレームのつもりは
なかった可能性もあるが、それにしても
医者だからと言って靴のレントゲンを撮るのは
私的利用ではないのだろうか。

基本的に履かないつもりで頼まれて、
仕事中に履いてもらえるようにローファーを作るところが良い。
「はいて歩いていただく為の靴です」
そもそも本来、靴というのはそういうものだ。
人によって使い方は好き好きで良いだろうが、やはり履いてなんぼだと思う。

ショーの靴作りを頼まれる展開は、世界が広がるようでとてもワクワクする。
連絡を怠られたのはちょっと無いなぁと思うが
遅くまでみんなで作業する感じが文化祭を思い出すのは分かる。
おとなしそうに見えて頑固で芯がしっかりしていて、言う事はしっかり言うのが良い。
イタリアの役者さんが役から自分に戻るスイッチが来るというのはなんだか素敵だ。

芸能人芹沢さんのエピソードもとても良かった。
芹沢さんがいい人で、嫌な感じが全くなくて、素直に見ていられる。

修行時代のエピソードで、自分の手元には同じ作業が回ってくるだけで
勿論それは一生懸命やるけれども、どんな人がはいたかもわからずじまいで、
だから自分の靴作りを目指したかったんだなとはっとした。
同じ作業が苦痛でない人もいるだろうし、
それが嫌だというのを我儘と捉える人もいる問題だと思う。
自分は、折角だから血の通った物作りの仕方をしたい方なので共感した。

ルイス・ナイザーの引用かと思うが、
『手だけで仕事をする者は労働者である
手と頭で仕事をする者は職人である
手と頭とそして心で仕事をする者は芸術家である』
という言葉は印象的。一概には言えないと思うが、言いたいことはよくわかる。
創造性の重要さを説いてくれるおじいちゃんが好きだ。