小野さんは無知でこまっしゃくれた少女の描写が本当にうまい。
小生意気でイラッとするのに、嫌いになれないし可愛くも見えるという
ちょうどよいバランスが保たれていると思う。

王様がいなくなって国が荒れ、誰も王になろうともしない。
だったら自分がなるんだ、という発想は荒唐無稽に思えるかもしれないが
それでいて真摯な思いに裏打ちされており、珠晶の話を聞くと
確かに何もしない大人たちより余程彼女の言っていることの方が道理で、納得してしまうのだ。

また、順番に読んでいたので前作にさらっと出てきた強気の王の名前が珠晶だったので
驚きながら読んだのも楽しかった。
同様の理由で更夜の登場も心躍った。

発想は偉いものだけれど子供で甘いところの多かった彼女が
失敗をしながら学んで行く過程がとても良い。

まだ考えの幼い珠晶に対し、
助け合うってのは最低限のことができる人間同士がある待って初めて意味がある。
できる人間ができない人間をただ助ける一方なのは助け合うではなく荷物を抱えること。
目の前にいる困った人を見捨てることが酷いことなら、
目の前にいる人が将来困ることを承知でなにかをねだるのも同じくらい酷い。
と話すシーンが良かった。
これは対子供に話している訳だが、地震等が起きた時の避難所で
持っている人に「わけてくれ」と言い、一度わけるとキリがなく
断ると人でなし扱いされ、というのは大人同士でも残念ながらよく聞く話だ。

季和の描写も、非常に生々しい。
妖魔が近くにいるから煮炊きをするなと言われて、その地点ではしてはいけないが
それより先では煮炊きをしても良い、という解釈をしてしまうなど
頑丘たちのあとを着いて真似しながらも、その理由や目的をなにひとつ考えていないし
人の話をきちんと聞くこともできず、思い込みが激しい。
これまた、こうした一見きちんとしているかに見えてその実自己中心的という人間は
実際にいるものだ。

季和の駄目さ加減に気が付き、
「自分たちが莫迦だったのはもう済んだことだし考えても仕方ない。
でも莫迦じゃなかった人たちのところに妖魔をつれていくのは駄目」と
妖魔に付け狙われながら迂回した人たちとの合流を目指すのではなく
踏みとどまって妖魔を倒そうと考える珠晶は非常に恰好良かったし、
本人が言う通り本当に頭も良い。

特に、駮を捨てざるを得なかった時、自分のせいだと気が付き
頑丘に謝るところが良かった。
頑丘だって悪かったんだ、と言うのも忘れないところが、らしくて良い。

ラストのオチも、珠晶らしいものだった。
実際のところ、麒麟はなぜこれまで迎えにこなかったのか謎だが、
いずれ明らかになることもあるのかもしれない。