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キャラメルボックスの休止のニュースを聞いて考えたこと ~演劇について~

2.5というジャンル

ネットでいろんな人の意見を見ていた中で、
2.5に客を取られた、若い子は2.5に行くからというような発言を見かけたが
私はそれは違うと思う。
ジャンル違いなだけで、寧ろ切磋琢磨できる同じ演劇業界が盛り上がっているのは良いことではないのだろうか。
そして、キャラメルに若い子が来ているのも、反対に2.5に年配の方が来ているのもよく見かけた。

ちょうど文学が好きな人がラノベを見下すことがあるように
私はストレートの舞台ばかり見ていたし
プロデュース公演よりは劇団公演の方が好きで、
マイクを使うような舞台より生声でやってくれる舞台の方が好きだと思っていた。
生声=声が通るサイズの小さな劇場なのが良いと思っていた。
だから少し2.5に対してネガティブな気持ちがあった。

衝撃を受けたこと

去年の年末、紅白歌合戦に刀剣男子が出るというニュースが流れた。
私はそもそも刀剣乱舞のゲーム自体始めはネガティブな感情を抱いていた。

元々刀剣自体が好きだったこともあって
勝手に変に擬人化されてもという気もしたし、
刀剣ブームが巻き起こり急に今までいなかった客層が
自分が行く博物館や資料館に現れるようになった。
それ自体は悪いことではないのだがマナーの悪い人が多くて
嫌な思いもして、一度は作ったアカウントも削除してしまった。

友達がやっているというのでポケットが出たのを機に
また始めてはみたけれど、そこまで真剣にはやっていなかった。
でも紅白は一応見ておこうというような気持ちだった。

そんな時、ニコニコ動画で
ミュージカル『刀剣乱舞』 ~真剣乱舞祭 2016~
が放送されていて、試しに見てみたのだ。
初見で前作を見ていないので、なぜこんな話運びなのかわからないのに、
見ているうちにどんどん引き込まれた。
照明や映像を駆使した演出も素晴らしかったし、
兎に角役者さんの演技が良かった。
そして何より見ている人たちがとても楽しそうにしていて
みんなが笑顔なところがとても良かった。

メディアの取り上げ方も手伝って、若いイケメンが出ていればそれでいい
というのが2.5なのかなと思っていた、その偏見が吹き飛んだ。
芝居として普通に楽しめた。
すっかり楽しみになってしまった紅白で、加州清光が私の中で決定打だった。
相当アウェイな雰囲気だろうし、色物扱いもされるだろうに
(実際その後のCDTVのネット版ではそうだった)
刀剣男士たちみんな堂々としていて、自分のキャラクターを保ったままでいた。
総合司会の内村さんに対して加州が言った「よろしくね、ウッチャン」が
自分はもう、これ加州本人じゃないかと思ってしまったのだ。

これがきっかけで刀剣乱舞ミュージカルのDVDを全て買い集め
年が明けてから刀剣乱舞の映画も公開されたこともあり、
今まで食わず嫌いをしていた2.5の舞台やプロデュース公演など
こだわりなく興味があったものを全て見るようにしていて
今月は週に1回のペースで観劇に行く予定である。

2.5の魅力

2.5の舞台を見ていて驚くのは、役者の人たちの演技力の高さだ。
正に、役を演じているのではなくて役を生きている。
だから、何か突発のトラブルに見舞われても役柄本人のままリカバリできる。
ミスがミスにならないのだ。
そこまでのレベルで役を演じきるのは相当の力だと思う。
役作りに対してとても真摯だ。
時々インタビューなどを見ると、そこまで考えてくれているのか
と驚くほどだ。
刀剣乱舞であればゲームの立ち絵と声しかない刀剣男士なのだが、
実際にいて動いたらこうなるのかと思わせてくれた。
”余白を埋めてくれる”ものだったのだ。

正直に言えば刀ミュのトライアルは
あまりレベルが高いとは言えなかった。
これを最初に見ていたら、もしかしたらハマっていなかったも知れない。
でも、劇団員ではないのでこの公演の稽古以外にも
映画やテレビやインタビューなど、
こなさなければならない仕事の種類は幅広い。
別の舞台も平行していたらこの役だけになり切れない。
稽古に使える時間もかなり限られてくる。
この公演のために初めて出会った人とも
チームワークを作り上げながら稽古をしていかなければならない。
そんな条件の中で、回を追う毎にあそこまで完成度を上げてくるのは
素直に感服する。私が知っていたストレートの舞台であれば
お芝居だけでなく歌やダンスもするし殺陣もできて凄いという感じなのに
2.5次元となるとその全てができる上に
更に演出の都合上必要な舞や和太鼓やエアリアルやアクロバット
なんでもやってしまうわけだ。
しかもそれぞれやるのではなくて、歌いながら殺陣をしたり
踊りながら台詞を言ったりする。
それを2時間ぶっ続けてやったりもする。
リハの段階では終わった瞬間倒れたというくらいハードなものを
本番では笑顔でやり遂げてしまう。

舞台などのギミックも面白いし、
プロジェクションマッピングをはじめとする最新の技術を取り入れていて迫力もある。
そしてやはり、脚本がきちんと面白かった。

そこには最近の観劇で得られずにもやもやしていたもの全てがあった。

演劇という総合芸術

例えば風が吹いているということを示すためひとつとっても
表現の仕方は色々ある。
役者が風に吹かれている芝居をするというのは必須だが、
ナレーションや台詞で「風が吹いている」と言わせるのも一つだし
実際に扇風機で風を送ることもあれば
風が吹いている映像を映すこともあるだろう。
そのどれを取るかというのは演出のセンスだ。

役者、脚本、演出、照明、舞台美術などが揃って演劇ができる。
本に合った演出、役者に合った舞台などのバランスも必要になる。

以前ハリウッドでも活躍した有名な演出家のプロデュース公演を観に行ったことがある。
小さめの劇場で本来であれば生声が通るはずだが
なぜだか声が聞こえるのが数人しかいない。
演出家や監督は常に会場の最前列で見たことしかなかったのか
生声にこだわりたかったのか理由はよくわからないのだが、
私の席は前の方だったのに何を言っているのか聞こえない。
かと思えば歌手役の人の歌唱シーンは大音量で音割れするレベルで
マイクを使っているし、
映像と前衛芸術調の布を使った舞も見入るよりは置いてけぼりになって、
途中で芸人もやっている役者のお題箱からの即興演技も入り
これまた別にうまくもなく、
どんな話だったのか最後までわからなかった。
これは演出家の独りよがりで、とても芝居とは言えなかった。
客の立場になれば最後列でも見えて聞こえるようにするだろうし
どうしても役者が生声でできないならマイクをつけるべきだ。

生声と言えば、キャラメルでも客演の人の声が殆ど聞こえないことがあった。

生声の迫力も良いけれど、マイクがあれば呟く演技もできる。
大音量のBGMに負けない声を張り上げなくても良いから
多少役者の喉にも優しくなるのではないか。

学生演劇なら生声が基本にはなると思う。
だが下手に生声にこだわると、早口で大声で怒鳴り合うだけの演技になる。
台詞を客の耳に届かせるのが第一目的になってしまう。
それだけしかできないとなると、厳しいものがある。
度々キャラメルへの批判でも聞かれたことだ。
笑うときも泣く時も声を張り上げるのが一辺倒に見えるし
他で通用しづらい。

自分も芝居と言えば生声でやってきたしそこへのプライドはある。
でも、マイクを使えば演技の方向性や種類が変わるだけで
どちらが劣っているというわけではないはずだ。

2.5の舞台にはまってしまうと、
正直に言えば最近のキャラメルボックスの舞台は
やはり魅力が無かったと言わざるを得なかった。演技力のある役者さんも勿論いるけれど
キャラメルの演技のやらせ方はワンパターンだし、
プロデュース公演は恰好良いと思うものもあったが
本公演となると古臭さを感じる演出が多い。
古式ゆかしいとか伝統的というのとは違う、自己満足感なのだ。

チケットの料金が同じ1万円前後だったら、
どうせなら楽しいもの、良いものにお金を払いたいのは当たり前だと思う。

ファンへのサービス精神

2.5次元の舞台のDVDを購入した時驚いたことのひとつが、特典だ。
一公演のDVDにDVDが2枚3枚と付いている。
特典映像がついていたり全景が見られたりと至れり尽くせりだ。

ファンサービスに関しては舞台自体もそうで、
幕張メッセほどの広い会場でも必ず客降りをしてくれる。
その為に役者は裏で走り回り、スタッフもそれをサポートする。

上川さんがいた頃の時代が好きだったという
キャラメルボックスの元ファンの人から、昔はこんなファンサービスをしてくれたという話を聞いたことはある。
その人は、最近売れてきてお高くとまっている感じがするというようなことを言っていた。
でも売れるというのはそういうことで、
距離感ができてしまうのはしょうがないと思っていた。
とは言え、売れていて有名で劇場のサイズ感も大きい舞台、
2.5だけではなく宝塚などのファンサービスも考えると
ここ最近のキャラメルボックスのファンサービスは
少なくとも自分が求めている方向性とは違ったように思う。
劇団員が自主的にやってきて握手をしてくれたこともあったが
もう随分前の話だ。

演劇は芸術ではあるが、商業としてやるのであれば
顧客満足も重要なファクターになる。
やりたいことをただやるだけの感情の発露であれば
それはやはり学生演劇に毛の生えたものという批判を免れない。
(学生たちに失礼だとも思う)

自分たちもやっていて楽しくてぜひ観てもらいたい
素晴らしいものを提供しお客さんに喜んでもらう。
更に、期待以上のものを提供し満足を得てリピーターになってもらう。
熱心なファンになり口コミでファンが増える。
そうでなければ、成り立っていかないはずだ。

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say

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