南極探検隊、と言葉では聞いたことがあるものの
確かに古い映画くらいしか連想することができない。
マイナス70度の世界。想像を絶する。
そんな極限状態での一年にわたる生活が、リアルかつ明るく面白く
ちょっとした日記のような調子で描かれており
気軽に読めて面白かった。

自分も筆者と同じく北海道出身なので
多少寒さに免疫がある方ではある。
道産子ならではの記述、たとえば『5月といえば春』といったような
本州の人間には一般的ではない書き方に思わず笑ってしまった。
とは言え、筆者の言う北海道で言うところの、という方言は
わからないところが殆どだったのだが。

単純に寒いだけではなく、その状態が続き
かつ周りに何も無い状況。とても想像がつかない。
食材にしても、日頃冷凍庫で冷凍しておくのとはわけが違い
放置しておけば漏れなく凍るわけで、
解凍がうまくいかなかったり
焼肉やチェーンソーがちょっと隙を見せれば凍り付いてしまったり
すごい世界だ。
こんな場所で、しかも9人だけで顔を付き合わせて一年の共同生活。
ビデオやスポーツなどの他に、食事が大いに息抜きになるのは当然のことだろう。

にも関わらず、つましく不便に暮らすべき、というような
自分は行ったこともないだろう役人が言う
『南極の思想』とやらは失笑モノ。

宮嶋カメラマンの本は何冊か読んだことがあるが、この中に描かれている宮嶋氏が最低過ぎて笑える。
この取材についての本も、読んでみようと思う。

筆者の行ったキャンプについての講義も面白かった。
確かに日常通りにしてしまうと、奥さんが
なんでこんなところで飯を作らなあかんのだと思うだろう。
次回キャンプするときには、ちょっとごみステーションに寄ってみようかと思った。
単1電池にスチールたわしで火種になるというのも、なるほどと思った。

日本人の隊がお正月にはお雑煮などそれらしい和食を食べたいと思うように、
アメリカの隊が放棄した基地が、クリスマスの飾り付けの電飾がついたままだったというのがとても興味深い。

それと、キアヌの対応がとても恰好良い。(笑)

結婚式の話はさらっと書かれていたけどとても素敵だと思った。
基地で料理を担当していた隊員がふたりで
披露宴の料理を作ってあげるなんて素敵過ぎる。

解説を読んで、
確かに各分野のエキスパートがそれぞれ集まっているのだから
鼻っ柱が強いのは当たり前で、衝突する方が寧ろ当たり前という気がした。
穏和そうな筆者が「思い出した、ちょっとこい!」と引っ張って説教をしてしまう様子がなんとも言えない。

料理ができる男って格好いいよなと思ってしまう、というのが
なんだか頷ける素敵な解説だった。