楽の茶髪について、お客様のこと、ひいては舞台のことを
気遣って染めるべきという意見なら分かるが
そうでない理由で批判してくる意見は腹立たしい。

自分ならこうしないのにと思うことをされるとイラつくが
「それは実は自分に一番近い人かもしれない」
というおじいちゃんのアドバイスが結構衝撃だった。
生まれた時はみんなまっさらで
あらゆる性格の人間に育つ可能性があった、
だから憲人がその人のように育つ可能性もあった
という考え方は想像だにしなかった。
そうならなかったのは、認めたくなかった自分を押し込めて今の自分になったし
だからそれを発揮する人を苦手に思うのも当然
と憲ちゃんを肯定してもくれているし
それは自分の一部で自分の影だ
というのがなるほどなぁと思う。

お母さんが憲人じゃないと無事終わらないわよ
と言ってくれるシーンも良かった。
確かに同年代だとストレスだし、若手の中では
憲ちゃんが一番うまくこなせそうだ。

言われた時は腹も立てていただろうに
お舞台のあとそっと渡会さんにお茶を出す楽くんもとても良い。

父が先生でなければ能もいいかも、という直角さんからのお手紙にちょっと笑ってしまった。

諸説あるが、影向の松と鏡板の言い伝えが好きだ。
連綿と続いてきた伝統芸だからこそ
先人たちの思いがつまっていて、だから今がある。
小太郎さんを招きたいという憲ちゃんの思いが伝わったのだと
シンプルに思える。

稽古で作るのは自信、というのもよく分かる。
よく稽古をするのは不安だから。

役に入り込み、国土創生を語るのに夢中になっていた、
というシーンがとても良かった。
停電でマイクが切れたからお客さんがかえって集中して、
中途半端なタイミングで電気を戻してそれが切れるのも嫌だし
でも暗いのは危険だってわかってたのにと
謝るところ、全てが西門らしい。
木霊する囃子の音、暮れていく空、地平線、
星が見え始めてすべてが完璧で止めたくなかった。
この表現でその場の空気感や光景が目に浮かぶようだった。