ネタバレあり

全体的に暗い話ではある。

細かいことかもしれないが、
『罪と罰』と『菊と刀』を比較し、
キリスト教的な強迫観念は日本人で実感できる人が少ないとするのはわかるのだが
『恥の文化』なら露見しない犯罪は犯罪ではなく
日本民族は完全犯罪に向いているかもというのは暴論が過ぎる。
『お天道様が見ている』というのは要は己の誇りに恥じることがないということである。
簡単に言うなら良心だ。
ラスト近くで「違った」と拾われるかと思いきや
確かに再度この話は出てくるものの、
「殺人者の心を抉るのは良心でも世間体でもなく単なる事実、殺した記憶」。
自分はそれを恥とか良心と言うのではなかろうかと思う。

まず殺人の動機なのだが、離婚した父が転がり込んできて
どれだけ辛い目に遭っているのかと思ったら
まだたったの10日しか経っていないでそこまでの怒り
というのは自分は動機としては弱いと思った。
確かに不愉快だしいなくなって欲しい存在だが
殺すしか無いと思い詰めるまでにはもっと酷いことが起きているかと思った。
それに父を追い出さない母親が謎でしかない。
お金を渡し欲求に応じ、どれだけ弱みを握られているのかと思ったら
娘の父が曾根であることを隠したいからというのも弱いと感じる。
妹が襲われでもしたかと思ったが、ガンで娘に会いたくてという本当なのか微妙なエピソードが出てきて
更に曾根が何をしたくてここへやってきたのか
秀一に殺意を抱かれて然るべき人物だったのかはぼやけてしまったと思う。

血がつながっていないという話は娘にはいつかは言うべきことだし、これが機会として伝えても良かったくらいではなかろうか。
血が繋がっていようがいまいが、私達三人は家族
という気持ちが大事なのだし、曾根という外的がいてこそうまくまとまることもできただろう。
母親がさっさと弁護士でも誰かの力を借りて追い出すか
そもそも家にいれなければよかった
としか思えない。
大人でまともそうなのが弁護士と警察くらいしか出てこないのだ。

母と妹の為に完全犯罪をするしかない、と一生懸命考ええた割には
計画が結構ざるで、意外性もなく目撃者がおり
その目撃者に強請られて二人目の殺人を企てる
というのも安直で、そんな短期間に自分の周りで
二人の死人が出たら警察がどれだけバカでも疑うだろうと思う。
同じ事故にしても拓也の方は自分が表面上関わっていないように見せる必要があったと思うのだが。
計画が稚拙であったということを、高校生だから本人は完璧だと思っていた、という表現ならばわからなくもないものの
ミステリーにおいてこの当たりのからくりは重要な部分だと思う。
証拠品を埋めて取り出されるというのはかなりのやらかしだ。
たとえ見つかってもガラクタにしか見えないと思っていたはずなのに
何故拓也や警察に見つかって簡単に論破されてしまうのだろう。

秀一が優等生で頭の良い人という描写はあるが
あまり説得力を感じられなかった。
凄みのようなものがないというか、結局子供っぽいし
普段から酒を飲んだり仲間を馬鹿にしていたりの描写の方が印象が強い。

唯一この中ではまだしも好きかなと思えたのは紀子だったし
彼女が気がついていても結局秀一を守ろうとしたところは良かったと思う。
他の方のレビューにもあったが、
女性だけ初めてで、なのに絶頂を迎えるというご都合主義ぶりはありえなさすぎて覚めるし
紀子が可哀想過ぎる。
無視をしていた癖に急展開過ぎたし、結局証拠品をもたせたままいなくなるくらいなら
手を出すべきではなかった。

事故が起きただけでも迷惑なのに、
未成年に夜勤をさせていた側が悪いとは言え
閉店に追い込まれるコンビニも気の毒。

母と妹の為の殺人だった割に動機が弱く、
結局バレてしまってどう責任を取るのかと思ったら
自白はせず死を選ぶというのはぎりぎりのラインで
母と妹の為という言い訳は通るとは思ったので
それは秀一の選択肢としてありかなと思った。
だが死に方として、事故か自殺かもわからない
というのが必須条件なのはわかるが
自転車で大型トラックに突っ込むのは絶対に死ねるかわからないし
何よりトラックの運転手が気の毒である。
だったら転落死なんかの方が良かったのではないだろうか。

色々と疑問の残る内容だった。