ネタバレあり

大きな声はそれだけで恐ろしい。
男は何かというと大声を出したがる。

主人公がスパイという職業柄強いのが
夫としては知らないからとは言え、
自分の腕に自信がある訳でもないのに妻を守ろうとする、
”そこで、わたしの人生において、感動的なことが起きた。 直人がすっと、わたしを守るように 一歩前に、盾になるかのように足を踏み出したのだ。”
というくだりがなんだかこちらも感動した。

シーソーモンスターでは昭和から平成で
黒いゴミ袋が出てきたりと時代を感じたが、
スピンモンスターでは近未来となっており
世界観は続いている。
車の自動走行や新幹線座席のホロ広告は
実際に有り得そう。
一周まわってデジタルが古くなり、
公的機関がデジタルを使っているなんて時代錯誤
というくだりが面白かった。

争いは無くならないとあっさり認めた上で、
その中でどうにか穏やかに生きていこうとするのは自由
というのが伊坂節だと思うし、それができる限界であり最善な気がする。
争いが起きないと何も進まないというのも
悲しいかな事実の部分があると思う。
しかしウェレカセリでも
人の感情までは完璧にはコントロールできないし
対立する者同士でも相手のことを知ろうとすることはできる。

知らずに手にとったが、
文芸誌『小説BOC』の創刊にあたり、 8組の作家が参加した「螺旋プロジェクト」の内のひとつで、
ふたつの一族が対立する歴史を描いた競作企画。
本作単独で十分楽しめたが、確かに多少海と山の話や
ウェレカセリのくだりは
唐突かつ中途半端な印象はあったので、他の作品も是非読んでみたい。