昨日行って来ました。
元々怪獣映画や特撮にそこまで興味も無く、観に行くつもりもなかったのですが
自分と価値観の近い人たちがみんな絶賛しているので興味を覚えまして。
久し振りに映画館へ足を運びました。

結論から言うと、非常に面白かったです。
伊集院光さんがラジオで仰っていた感想と近くて、
私はエヴァンゲリオンはひととおり見たけれど好きではなくて
庵野監督も友達にはなれなそうかな、という感じですが
久し振りに面白い邦画を観られて満足でした。

以下感想。ストーリー上のネタバレは含まれませんが
演出などに対しては多少言及していますので
ネタバレがお嫌な方はご留意ください。

 

『新』ゴジラ

『シン』には『新』『真』『神』の意味が込められているそうですが
まず『新』と私が感じた部分。

子供用の怪獣映画ではない社会派の映画。
現代日本の問題点なども浮き彫りにされている政治的な描写も多く
非常に大人向けです。

初代ゴジラと似た見た目で、フォントや音楽も多用されていますが
シン・ゴジラのゴジラは体高もさることながら尻尾の長さもシリーズ最長。
尻尾が長くデザインから言ってもまるで別個の生き物のようで、
強さや不気味さを強く感じました。
次々変態していきますが、初期のバージョンは
ちょっとモンハンのオオナズチやラオシャンロンを思い出しました。
特に反撃もせず、しかしその巨体が町を動き、全てを薙ぎ倒してしまう。

映画界の常識では3時間を超えるだろう分量の脚本。
キャスト陣が早口で畳み掛けるようにセリフをつなげていきます。
これが緊張感を演出し、テンポも良く、次々と場面が転換していきます。

また、カット割やカメラワークが素晴らしいです。
アニメーションでよく使われる手法が多用されているように感じました。
カメラは10台あって、それとは別に監督自らiPhoneやiPadで撮影し
その撮影データも使われています。
カメラは部屋の天井にもあって、キャストが知らなかったというほど。

それらが非常に新鮮に面白い画面を作り出しています。

主要キャストの方にも演技指導はあまりなかったようですが
エキストラの方々もあまりに人数が多く、演出は基本的に無いそう。
ただ逃げ惑え、というのではなく、
あたなたが実際にその場にいたらどうするかというのを考えて
演じて欲しいという話だったと聞きました。
それが功を奏し、たくさんの人たちが思い思いに行動するところが
非常にリアリティを感じ、自分がその場にいるような恐怖を感じました。

予告にも使われた線路からのゴジラのあおりのシーンなど
鳥肌モノでした。

ご存知ない方は、曲が踊る大捜査線のパクリ、と思って
そうした感想を書かれているケースも見かけました。
自分はエヴァにそこまではまれませんでしたが、
確かに一時代は築いたアニメだと思っていますし
あの曲もとても響きますし滾りました。
ゲームでキャラのテーマ曲になっていて
そのキャラが登場する度にかかるBGMと同じようなもので
何度もかかってはいましたが私は全く気になりませんでした。

御用学者がアニメ界の巨匠たちに似た外見をしていたり、
額縁の絵がエヴァのワンシーンだったり、
ヤシマ作戦を連想したり、などという小さな”ネタ”はありましたが
知っている人だけが「あっ」と思う程度で
それがシン・ゴジラのストーリーを邪魔するような
内輪ネタではなかったのも良かったです。


『真』ゴジラ

戦後に作られたゴジラシリーズ。
対して今回のゴジラはと言えば、3.11後のゴジラとも言われています。
現代日本人にとって、放射能と言えば原子力爆弾より原発事故の方が
連想しやすいでしょう。
そしてまた、海から川を伝い上陸し、家屋や全てをなぎ倒すゴジラ。
地震や津波などの天災を思わせます。

原発はそこにある以上、停止したところで”危険”がなくなる訳ではありません。
地震についても、日本に住む以上逃れられるものでもありません。
”敵”と認識しそれと戦うというのではなく
苦難や苦境と共に生きるという戦い方を模索する日本の姿が
シン・ゴジラの中にはありました。

長谷川博己さんが演じる矢口蘭堂が瓦礫に手を合わせるシーンは
特に演技指導もなく、これを見てどう思うか、としか言われず
長谷川さんの心から出てきた動作だったそうですが
日本人であればここに共感した人は多いのではないでしょうか。

武器ではないものも利用するあるシーンは、
実際にはありえないこととは思いますが
国家をあげて戦うという感じの表現としても、
カメラワークとしても迫力がありました。

自衛隊全面協力の戦闘シーンは誇らしく感動もあり
つい感情移入して緊張や感謝の念を抱きつつ手に汗握りました。

そしてまた、核を抱くゴジラが

脅威であり福音であるという
説得力や未来への光明を感じました。

2016年だからこそ描ける真のゴジラ像がそこにはあったと思うのです。


『神』ゴジラ

呉爾羅 と呼ばれていたというゴジラ。
シン・ゴジラに出てくるゴジラには、感情が見えません。
今までのゴジラシリーズなら、なんなら人類の味方をしてくれるような
ケースもありましたが、
そうしたところは一切無い。
かと言って、攻撃的かと言えばそうでもない。
自分が攻撃されるまで、反撃はしてきません。
ただただ、生き物の本能として目を覚まし、進化し、陸に上がる。
それだけなのです。
だからこそ天災であり、神にも見える。

フルCGで作られたゴジラの”中の人”であるモーションアクターは
野村萬斎さん。
萬斎さんご自身が仰っている通り、
萬斎さんがやるということは狂言や能の様式美、
無機的で人間臭さが感じられない神のような侵しがたい存在感が
確かに期待されたのだと思います。
それを意識した萬斎さんのモーションをキャプチャしたシン・ゴジラは
正に恐懼を覚えずにはいられない神の姿。

古来から日本人は、八百万の神として自然全てを神としてきました。
神様のされることに対して、感謝したり困らされたり
諦めて受け入れたり、時には戦ったりして生きてきました。

旧作のゴジラシリーズに比べて、ゴジラが倒されるだけ
中身が無い、という感想も見かけましたが
自分としては神≒自然と戦い受け止め、生きていく人間の姿が
描かれていたと感じました。

ハリウッド映画などではありがちな、登場人物の性格描写、
家族の存在や恋愛などの要素を極力排除し
淡々と只管ゴジラと向きあっているからこそ
正に神との対峙であると思量しました。

矢口たちのプライベートが一切描かれないことや
本編を邪魔しないにしてもネタが入っていることが不満な方、
淡々とゴジラを倒そうとするだけ=中身がない・浅いと思う方は
確かにおられるでしょうし、そうした方がこの映画を
面白くないと思われるのはよくわかります。

しかし私はそれこそが功を奏したのだと思いますし
国民の為に戦う公務員の姿が
ある意味では滅私奉公をする侍の姿でもあり、
神に向かう審神者のようでもあるように見えたのです。


ここから少しだけネタバレ。

ゴジラが死者の霊である説などもあるようです。
ゴジラが無性生殖で増え更に進化し空を飛べる個体が生まれるかも
ということが映画の中で語られていました。

それらが現実になってしまったら、
ゴジラから巨神兵が生まれ、
火の七日間やナウシカの生きる世界を
呼んでしまうのでは、などという説も興味深いです。


久し振りにもう一度観に行きたいと思う映画でした。

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