一言で表すなら、彼ら家族の生き方に感銘を受けた。
けして明るい話ではない。
なのに、力強く光が差しているように感じられる物語。

『春が二階から落ちてきた。』
という一行目から、私はすっかり虜になってしまった。

泉水の夢に出てくる過去の母とバットを持った春は
とても衝撃的で考えさせられるシーン。

重いものを抱えていても、春は泉水を兄として頼っていて
泉水も春を大切に思っている。
ふたりは兄弟で、父を尊敬し、母を愛している。
それが苦しいほどに伝わってくる。
父が誤魔化すことなく息子たちに向きあい
お蔭で一歩間違えばぐれてしまうかもしれなかった泉水に
深い感銘を残してくれた回想シーンも素晴らしい。

父が泉水と春を食卓に呼び、話があるというシーン。
私は父の握手を、ありがとうと言いたいのだと解釈した。そして、涙が止まらなくなった。
彼の行為自体は本当は許されることではなく、
またありがとうの一言で語りつくせる訳も無い。
男と男同士の会話として、様々な感情があの握手にこめられていたのだと思う。

ビジネスホテルのフロントの男と仙台銘菓の”オチ”はまた素晴らしく
春が「行け!」と言うところから下に降りるまでの流れも美しい。

とてつもなく深く、優しく
どうしようもない人間もいる半面
やはり人間というのは素晴らしい生き物なのだと
思わせてくれる物語。