史実に残っている家定評がこの作品中にも出てきて
飽く迄も市井の噂であるという設定が非常に面白い。

薩摩の事情を知っている瀧山も賢ければ
大奥の以上を把握している篤姫も賢い。
篤姫と家定の様子を見て、家定の幸せを思い心底喜んでいる正弘が可愛らしかった。
篤姫に対して思う所のある瀧山だが、
石鹸を贈られて素直に感謝できるところ、如何にもだと思う。

桜が咲くのが楽しみだ、と思えたこと
今まで先を楽しみにしたことがなかったのはお労しいが
本当に良かった。
あの瀧山がまるでじいやみたいになっているのは気の毒とは言え
食事を美味しいと感じ馬に乗って楽しそうな様子はこちらも心温まるものがある。

それだけに正弘の病は悲しかった。
動揺する上様と瀧山は可愛らしく、
カステラを持たせる上様も
正弘の姿を見て思っていたより顔色が良いと嘘をつく瀧山も優しく
悔しくて泣く瀧山、それに対して
「私だって悔しいのだ」と返す正弘の言葉も泣けてくる。
続いての御台様への告白のシーンも涙なしでは読めなかった。
家定公に何も落ち度はなかったのを、
打ち明け話を聞いてすぐに「手傷を負いつつも合戦に勝った侍と同じ」と言える篤姫
本当に良い人を迎えることができてせめてもの慰めである。

正弘に馬に乗る姿を見せようとする家定、御台、瀧山の心映えもまた美しく、
上様の身代わりとなって自分が死ぬことで上様は必ず幸せになれると言う正弘。
もうこうなっては、本当にそうなることを願うしか無い。

史実上の家定が首をそらし足を踏み鳴らしてから発言し
それが脳性麻痺の症状ではなかったかと言われているのを
黒木の失態としてうまく織り込んでいるのも興味深い。
家定が病弱というのも、妊娠していたとするところが面白かった。