公式サイト https://www.bullettrain-movie.jp/
原作が好きなので興味があり見に行ってみた。
2021年に「ブレット・トレイン」として英訳版が出ていて
話題になったという経緯があるようだが、だから映画化された訳ではなく
英訳出版に当たり映画関係者に小説のプレゼンをして面白いと思われたことが
映画化のきっかけだったらしい。
映画はやはり小説に忠実ではなく、ハリウッドらしい改変が加えられているものの
井坂先生っぽさは細部に感じられ、非常に面白かった。
日本という設定の世界は、特に東京近辺は非常にサイケデリックだ。
帰国子女の友人に、日本は看板が派手で目が疲れる
と言われたことがあるのを思い出す。
日本なのに外国人が非常に多かったり
接客業なのに無礼な態度を問ったり金髪だったり
ソメイティを思わせる着ぐるみが新幹線の中にいたり
自販機の機体や中の商品が日本にはあまり無いものだったりと
日本人が見る分には違和感しかなく、
世界観についてはファンタジーと捉えた方が良いだろう。
ただ、よくある外国人の描いた日本は日本ではなく中華圏のアジアだが
本作はそれらよりはやや日本ぽさがあったように思う。
ホワイトウォッシュではないかとの批判があったようだが
多分多くの日本人はそこよりも、日本人ではないアジア系の方が
日本人として出演している方が引っかかるのではなかろうか。
その点も、本物の日本人も数人出演している点で少し緩和されるかと思う。
仕事で乗った新幹線にその道のプロがたまたま乗り合わせ
主人公のついていなさでうまくいかず事態がこんがらがりつつも
なんとか最終的にはミッションを終えるという
大まかなストーリーは原作通り。
もし未読であればぜひ原作も読んでみて欲しい。
原作は三部作の内の二作目になっており、単体でも理解できるが
可能であれば通して読んでみていただきたい。
ハリウッド仕様ではない、日本っぽい中にも
はちゃめちゃな展開が面白い。
伊坂先生は“なぜ、人を殺してはいけないのか”にご自分なりの答えを出そうとして
この小説を書かれているので、その点も興味深い小説だ。
ネタばれになってくるが
細かな違いをあげると主人公の名前である七尾は出てこないし
そもそも原作の舞台は東北新幹線である。
見栄えがよく外国人にもわかりやすい東京-京都の架空の電車に変えられ、
米原を過ぎて京都が間近なのに富士山が見えてくる。
蜂はペアではなく女性一人だし、車内販売員なのも変装である。
彼女の使う毒はアナフィラキシーショックではなく
これも”映え”の為だろう、体中の穴から血が噴き出すショッキングなものに変更された。
王子は少女になっている。一応王子という言葉は出てくる。
大きなものだと峰岸の設定が異なり、この辺りも映画映えするよう
ど派手なものになっており
やくざと勘違いした設定かつホワイト・デスは道場破りみたいなことをして
それでなぜか認められたことになっているのも不思議ではある。
その辺りはもうハリウッド式なので個人的には大して気にならなかった。
主人公の不運さが原作ほど際立っていなかったのと、
少年が罪悪感がないどころか楽しんで犯罪を犯すという気味の悪さが
王子が少女になりしかもホワイト・デスの娘設定になることで消えてしまったのが残念ではある。
乗務員がふたりの殺し屋の間を縫ってワゴンの準備をするのが
違和感があるが、原作でも他の人に気づかれないようにと七尾が苦心し
掃除をするようなシーンはある。
ミカンとレモンのキャラクターは非常に良かった。
京都に近づくにつれ
物語はどんどん原作からかけ離れていく。
真田さんが演じるエルダーが狭い車両の中で刀を振り回すのは恰好よく、
ゴールデンカムイを実写化したら土方さんはこんな感じだろうか
などと思った。
とは言え、ぼんやりした普通の老夫婦に見える二人が
実はやり手の元プロで、きっちり仕事をして孫たちを助ける
という原作の恰好良さは一切無く、ひたすら派手な展開だ。
助け方については前作『グラスホッパー』の流れが無いと
原作通りに作っても槿のキャラが伝わらず
話が浅くなってしまうだろうから、この辺りは仕方ないと思う。
大阪駅は存在が消され、新幹線は脱線し、
それでは起きてこない京都市民が
王子が撥ねられた事故でやっと屋外に出てくるとか、
そもそもこの電車は何時に東京駅を出て何時間かけて京都に着くのかとか
そういったことも謎ではある。一種のファンタジーだ。
ホワイト・デスとの対決も、原作にはそもそもその一連の流れがないので
ストーリーに感情移入はできなかったが
アクションは非常にど派手で単純に見応えがある。
原作の真莉亜と七尾のやり取りはなかなか好きなので
マリア役のサンドラブロックの登場は嬉しかった。
あんな場所に、しかも東京から京都へという設定なのか
車で駆けつけるのも不思議だが、ちゃんとオチがついているのが良い。
王子の最後は原作に比べてやはり深みがなくなっていて残念だが
原作通りの終わり方だと描かれないまでも非常に陰惨な展開が予想されるし
同じ殺されるでもギャグのようにすぱっと終わるのが
映画としては正解だったと思う。
仕事ではなく遊びでやっていた王子の異常さの描写が無く
親に蔑ろにされてちょっと可哀想風の展開なので仕方ないだろう。
ハリウッドらしいアクションと爽快さのある展開とオチで
とても面白かった。
伊坂幸太郎「ブレット・トレイン」インタビュー 「想像以上に、小説のアイディアを使ってくれていることに驚きました」 | カドブン https://kadobun.jp/feature/interview/6rquzuz48l4w.html