解説にある音楽+スポ根+ミステリというのが正にそのとおりな小説。
第8回『このミス』大賞受賞作品なのだそうだ。
ピアノを必死に弾く鬼気迫る姿が目に浮かぶような描写で
読んでいてひりひりする。
知らずに読んだが、岬洋介というシリーズものなのだそうだ。
岬さんのキャラが興味深かったので納得である。
あとは天才医師も濃いキャラで印象的だった。

武道でも稽古事でも何でもい いが、
何事か達観したり修羅場を潜り抜けたりすると人間には筋ができる。
想像を越えるような苦難に遭っても立ち向かえるよう、
日頃の行住坐臥の中でその人間を支え る支柱になる。
年齢では決まらない。死線を乗り越えているかどうか
というおじいちゃんの考え方には非常に共感。

ここからはネタバレになるが
全身皮膚移植で継ぎ接ぎだらけなのに、顔は元通りというのは
流石に無理がある設定だと思う。
ただ、顔だけは元々無事だった、ではネタにならないので
この辺りは仕方ない部分もある。
綺麗に整形した、服の燃え残りがなければ誰か判別がつかなかった
という部分で、もしや、と思ったのだが、流石に違うだろうと思って
読み進めていったので、からくりが分かった時には拍子抜けだった。
女子高生視点で書かれているのがちょっと狡いかもしれない。

怒涛の岬氏による種明かしが滔々としていて多少残念。

金銭問題はミステリにはありがちだけれど、本当にこんな風になってしまうのだろうか。
お母さんは自分の勝手な勘違いでルシアのことを遥だと勘違いし
整形までしてしまうという中々取り返しのつかないことをしているのに
よくもルシアに対して怒れるものだと思ってしまった。
また、遥の級友たちもやっかみなのだろうがつっかかり方が稚拙で腹立たしい。

下諏訪美鈴も嫌なキャラだが、彼女もシリーズの登場人物のようだ。

最初の方からピアノを押し付けるような母親には違和感があったので
主人公が様々な理由や葛藤があってのこととは言え
ピアノが好きで弾いていた部分があったのは救われる部分。