テレビ番組の人間から取材を受けて、その人に説明をする
という形で主人公たちの回想が行われる手法が
相変わらず秀逸だと思う。
無駄が無く、何も知らない読者が何も知らないテレビの人間と同じ視点でいられる。

主人公たちの境遇には身につまされるものがあった。
”雨が降っても、それを涙だと思うことはなかったのに、空の赤さには、心のどこかを刺激された。”
という表現も切なくなる。

そうした境遇にいただけに、
他者とうまくやっていくためには、親切に、
少なくとも礼儀正しくしたほうがいいと思い
表層的にはできる限り、穏やかにふるまう。
実は核の部分は陰湿だが、どうせ誰も人の核の部分など気にかけない。

小玉が自分たちと似ていると感じる、と風我が話すシーンで
「家は地獄で、外にいる時だけ生きていられる。だけど、外の自分は本当の自分ではない。そういう感じが、小玉にはあったから」
という表現があり、ここも共感してしまった。

”音もなく流れていく雲が、空を撫でていく。夜の寝息が聞こえてきそうな静寂さの中で、町のあちこち、世界のあちこちでは、恐ろしいことが起きている。”
そんな現場に立ち会ってしまって、そこで自分の手に人の命を奪う道具があったら
興奮に任せて何をするか分からない。

いずれにせよ小玉が叔父の看病をさせられることなく
解放されたことには安心した。

母親がいなくなって寂しかったと言う優我だが、
それは子供だからどんな酷い親でも親なのだ、という
ありふれた馬鹿馬鹿しい解釈ではなくて
呆れて軽蔑していたし、ただ謝って欲しかった。
それを待ち望んでいたのに逃げられたからがっかりした
というのが、とてもリアルな感情だと感じる。

ワタボコリの章が唐突に挟まった構成に驚いたし
どういうからくりなのか気づき
途中でページを戻って確認し、確信してから読み進めた。

残虐でエグい描写も多く
救いはあるもののハッピーエンドとも言えない物語ではあるが
ミステリーとして構成も伏線回収も小気味良く
面白い作品だった。