ネタバレあり

いきなり自転車でどついてくる先生、現実では中々に最低だけれど、そんなところまで不思議にぶっきらぼうな魅力に感じてしまうのは、主人公の恋フィルターを通して見ているからだろうか。
本当にきっちり「オヤジ」な言葉ばかり発してくる。意地悪最低と思っていても何一つ伝えれないまま通る、
街灯の灯る夜道の描写がとても美しい。
大人になって初めて自転車の2人乗りをするのが可愛いし、『だって恋愛だと思ってた』とはしゃぐ気持ちもよくわかる。
一線を引くように、自分に言い聞かせるように、投げやりな言葉を言うときの先生の敬語はちょっと好きだ。

泣いてしまって、嫌な言葉も向けられて、無遠慮に顔を掴まれて、ひっぱたいて引っかかった服を破いて立ち去るシーンが切なかった。
背中を見て、肩甲骨がキレイだなぁと思ってしまう
恋をしている表現が綺麗だ。

ダブルワークだから、一方が定時で上がれなければもう一方に影響が出る。
雇主がいないから臨機応変に出来るけれど、つまりネイルの方ばかり割を食うことになる。
折角チラシを配ったのに、気分も落ちそう。

シロちゃんがチラシを拾ってあげていたことを思い出して、俺は拾わないと言う先生、
困った人だけれど傍から見ている分には可愛い嫉妬だ。
厳しいけど、ダブルワークなのに派遣より不安定な仕事を増やすのは確かにうまくはない。
やめませんと言い返せて偉かった。
それに対して羨ましくもある、頑張れば?と返ってきてほっとした。
いくとこまでいかないと経験値にならない、
失敗してもやり直せる、時間は資本。

なんだかんだで、一緒に帰りたくて時計を遅らせていたのが、やっぱり困った人だけれど可愛い。
ブラとパンツが気になったり、寝ちゃうと胸無くなると思ったりするのが可愛いし、リアル。

薫に会えて嬉しいシロちゃんがちょっと大型犬みたいだ。
1日の終わりに先のことを想像できて良かった、という言葉が印象に残った。
派遣のゴールイメージは辞めるしかなくて
10年後のロールモデルがいない。
やめるも続けるも復職も自由だけど期待されてない。
時給が大幅アップすることはないし、いつ切られても文句は言えない。
自由を不安に感じることもどうしたってある。

仕事を増やした薫に偶然出会って、飯でも食いに行くか
と声をかける矢飼先生は、なんだかんだで
やっぱり薫を気に入っていて、構いたいというのがよくわかる。
薫にしてみたら「先生は私をどうしたいんですか」だし
先生も自分でどうしたら良いかわからないのだろう。

薫が竹を切っているのを見て、手伝いたいシロちゃんが不器用だ。
全く薫に好意が伝わっていないのに、薫以外にはダダ漏れな感じが気の毒。

女性が一生1人で生きていくのは、
今の世の中とても厳しい。
今のままじゃ無理だからもがいてるだけで、
夢に向かってきらきらしている訳じゃない。
”昔読んだ物語はどれも「めでたし」か「残念」で終わっていて誰も「その後」の話をしてくれなかった
でも人生って「その後」だけでできている”
その後を、自分の力で生きていかなければいけないのが
自由すぎて楽しくもあるが、辛くなる時も多いなと思う。