何の本で読んだのか忘れてしまっているが…こういう話を読んだことがある。

ある会社で、非常に優秀な技術者がいた。彼は有能でほとんど毎四半期ごとに優れた成果を出していた。ただ、彼は非常に…よくいえば謙虚、悪く言えばシャイで、ある成果が彼の成果であることを調べるのは、彼の上司にとってかなりの労力が必要だった。

この会社の社長は彼に報いるために、毎回彼を社員ミーティングの場で表彰し、ボーナスを与えていた。彼はそのような場でも、自分はこのような表彰をされるに値するようなことはしていない、という趣旨のことを毎回述べていたが、誰も彼の主張に耳を貸そうとはしなかった。

で、10回目の表彰の直後、この技術者は辞表を提出した。

人事部があわててヒアリングを行った結果判ったのは、

* 彼は人前に出るのが苦痛であり、表彰式などは拷問でしかなかった事
* 表彰されるたびに新しい仕事が降りかかっており、ろくに有給休暇も取れない状態になっていたこと
* 彼にとって仕事を離れての有給休暇のほうがボーナスよりもはるかに重要であること

で、人事部はこの技術者に対する表彰の停止と、優秀な成果に対しては有給休暇の追加とそれを自由にとれる権利をもって答えるべきである、と社長に説き伏せ、この技術者の流出を阻止した…

ペレルマン博士の話も、これと同じことだと思う。人前に出るのが苦痛な者に、優れた業績の報酬として人前に出ろ、というのは明らかに間違っている。成果に罰則をもって当たる行為そのものだ。

彼にとって大事なのは、ゆっくりと数学について思索できる環境であって、マスコミ対応をしなくてはいけない有名人化ではない。もし賞金をもらうときの条件に「報償を与える側の都合に合わせてマスコミに露出しろ」というものがあれば、きっとそのような報償は受け取りを拒否するだろう。

天才のこのような要求を無視して押しかけて無用なストレスを与えるなら、そのようなことをしなかった場合に得られたであろうさらなる数学的発見が失われることになりかねない。そういう事を配慮しないで、ペレルマン博士を追いまわしたり、特番を組んだりする連中は、明らかに マスゴミ の名に相応しい。

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say

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