脚本と演出には思う所がたくさんあるが、
全体的に役者さんの演技が本当に素晴らしい。

シーンとしては最高に面白かったけれど
蜂須賀があの量のカルピス?を舞台上で毎回飲みきって
台詞を言い殺陣をするのは大変だったろうに。

こんなに激しい殺陣があるのだからフラットの靴で良いのに
加州清光が今回からヒールのあるブーツになっていて
役者さん御本人がそうしたいと仰ったというのを聞いて驚いた。
そこまで役を大事にして演じてくださるのには頭が下がる。

自分はゲームの刀剣乱舞を艦これの流れで始めて
和泉守兼定が出るまではやってみるか程度で
ゲームは新選組周りの設定を司馬史観を採用している為
土方歳三像にも不満が多い。
しかし動いている和泉守兼定を見たら受け入れられるものがあった。

役者さんの力は本当に凄い。

出来上がった沖田総司像というのがあって、どんなお芝居を見ても
大抵は沖田さん役をやる方は好青年で明るくにこにこしていて
ちょっと清潔感があるタイプの方が演じている。
その意味では栩原楽人さんの沖田はぴったりだった。
2018年で芸能界を引退されたそうで、もう栩原さんの沖田が見られないのは残念である。
近藤は無骨で土方は鬼副長。このイメージもうんざり。
うんざりついでに言えばいつまでもいつまでもあの羽織を着せ続けるのもうんざりだ。
演出側としては良い目印になるし、着せたい気持ちはわかるが。

ストーリーについては、司馬史観採用なので仕方ないとは言え
池田屋で沖田さんが喀血するのに興醒め。
加州清光はそこで折れるし、新選組が歴史に名を残すきっかけになった事件という意味では重要だ。
しかし新選組自体はここから名を挙げていく。
既に喀血するほど容態が悪かったら剣士沖田の名が轟くはずはないし、薩長から狙われるほど沖田を有名にしたのは安定では?
池田屋で加州が折れて沖田が切られて死んだ、なら分かるがそうではないのに何故安定が池田屋にこだわるのかよくわからない。
加州が安定を羨ましがる方が自然な気がする。

加州清光と大和守安定が日野について知らないようで、
2振は京都で、長曽祢虎徹と和泉守兼定は日野で手に入れたという
設定のようだ。江戸に戻ってきた時のことを込みで言っているのなら、沖田さんも江戸までは戻ったのだから安定は知っているだろうに。
それとも刀剣男士は戦闘中に携え抜いてもらえないと記憶は残らないのだろうか。

土方さんがお馬鹿で荒い感じの設定も気になる。

「お前たちは選ばれたじゃないか」という台詞は成程と思った。
どのように扱われるか選べない。物ならではの悲哀だ。

『選ばれぬ者』はみんなの思いや考えが歌われ、
ミュージカルっぽくて非常に好き。
「勝手なこと言いやがって」と安定に対して思っている清光は、
主の手に自分は握られていて、その場にいたからこそ
沖田さんが血を吐いて倒れた時の辛さを知っている。
だから
「こんな思いは俺だけで十分だ」
「あんな思いあいつにはさせたくはない」
と言うのが、普段あまり内心を見せない加州だけに切なかった。
兼定が「俺だって最後まで一緒にいられたわけじゃない」と言うのも
とても良かった。
みんなの中では最後の方までいたけれど、箱館まで一緒にいたからこそ
いよいよという所での別れは辛かっただろうと思う。

かっぽれのシーンもとても好き。正に新選組らしいと思う。
安定が入隊した時奥沢栄助の名を騙ったのはおっと思った。

個人的にはここぞというところだから加州を選んだのであってたまたまではないと思っている。
そしてそんなお気に入りを折ってショックだったからこそ沖田さんは直そうとしたと思う。

「だから新選組は負けた、刀の時代は終わった」
は全く納得がいかなかった。
近藤さんが諦めるというのも違和感しかないし、
仲間の切腹も見届けるような隊の局長の刀が
元主の死を直視出来ないというのも可笑しいと思う。
介錯を頼まれるのは名誉なことでもあるはずだし、頼まれたのだし
自分が切りたいと思うほうが自然だ。
なので正直無理矢理には感じるが、
この刀ミュの虎徹がそんなに弱い刀であれば
殴ってでも止めて替わってくれた蜂須賀は本当に優しい刀だ。

あつかしから続けての出陣なのに隊長を外され
元持ち主を目の前にしても思ったより加州が脇役で
冷静なのもちょっと予想外だった。
安定を行かせてやって、と蜂須賀に頭を下げたり
大丈夫と信頼しつつももし間違えた時は俺に斬らせてくれと言ったり
具合の悪い沖田さんを見て泣いている安定を、慰めようとしてやめてそっと立ち去ったり
少しだけ見える加州の本音のようなものは美しかった。

沖田さんと黒猫は飽きるほど読んだ小説あるあるネタなのでこれも食傷気味だし
時間遡行軍側の力に人間が魅入られるのはあつかしと同じパターンではないかと思いつつ
ずっと傍観者のような立場を取っていた加州が
「なんだよこれ、どうすりゃいいんだよ!」と焦ったり
切りかかってくる沖田に対して「ねぇ!」と呼びかけるのもとても良かった。

佐藤流司さんの演じる加州清光は本当に素晴らしく全てがツボで、また出陣している姿を見たい。