映画にするにあたって、大人の事情含めそのままが難しいケースがあることはよく分かる。
しかし、台詞や設定など変える必要があったように思えないところが多かった。
自分が原作漫画で重要だと思っている不眠症要素も序盤だけでなくなってしまうし、
ベタベタとした男女の恋愛ではない爽やかでまっすぐな描写が好きなのに
普通の恋愛物にしか見えず、監督か脚本かあるいは両方かわからないが
恋愛に的を絞った映画として作る意向があってのことかと思う。
自分の求めていたものではなかった。
アニメはだいぶ良い出来で、原作の良さをきゅっとまとめた映画になるかと期待していただけに残念。
単にこの映画だけを見た方は面白いかもしれないが、なぜ?と思うところはあると思う。
自分は漫画のファンで、アニメも見ており、どちらも全く触れていない連れと見に行ったが
連れは要所要所で意味がわからない演出、と思ったところがあったようだ。
すべて映画で改変されていたところだったので原作ではこうだった、と説明したら
納得はしていたが、改悪だと感じたようだった。

 

良かった点

キャスト

キャストはとても良い。
特に伊咲役の森七菜さん、穴水役の安斉星来さん、蟹川役の永瀬莉子さん
野々さん役の川﨑帆々花さんはイメージ通りだった。
漫画で折角良くても実写にすると生々しくはどうしてもなってしまうが
伊咲と穴水の爽やかな感じがとても良い。

 

撮影地

舞台が原作漫画と同じ石川県七尾市で行われているので、
聖地巡礼的な意味では嬉しかった。バス停のところなどワクワクした。

 

不満だった点

学校の日常描写の改変

まずもってオープニングから、なぜそこで? という気持ちに。
ロケハンして綺麗だったから使いたかったのかなと思ってしまう。
学校でみんなが文化祭の準備を楽しそうにしているのに、
隅で丸太が寝ているというつまらなそうな日常描写だから良かったのに。
文化祭間近なのは撮影時期や施設の許可やなんかがあったのかもしれないが
文化祭準備という青春真っ只中感、授業中じゃないからこそ多少行方不明になっていても大丈夫
な感じなのに、大掃除というのも。
これもロケハンして吹き抜けが珍しいから使いたくなって変えてしまったのかなという印象。

 

部員が2人しかいない

ツーちゃんがいないのも、大人の事情なのだろうが
こういう創作物の舞台において動物の存在というのはとても重要で
動物がいるからこそ緩和されうまく回るものがある。
白丸先輩のお店の壁にカプセル型キャリーバッグがかかっているのが唯一の痕跡か。
ツーちゃん自身の切ないエピソードも当然カットされている。

 

受川くんの登場シーンが少ない

丸太の唯一の理解者で生徒会にいる利点もある受川の存在感が薄すぎて
女子たち+1程度だったのにはがっかりした。
指輪物語の二作目を見ていてもそうだったが、恋愛を描こうとして
男同士の友情描写をカットしがちなのはなんなのだろうか。

 

臨海学校シーンのカット

眠れない2人が夜にお散歩をして、
居場所の天文台を守る為に星景写真を撮る目標をたてたら
夜に起きていられることが利点になって、という徐々に進む展開が良いのだが
映画では臨海学校はカットされている。
あんなに眠れないことに悩んでいて眠りたかったはずの丸太が
伊咲と一緒にいると寝るのが惜しく感じてしまうところや
倉敷先生が他の先生たちをお酒で潰しておいてくれているのが好きだったので残念。

 

ラジオをする理由説明が無い

なぜ電話やLINEではなくてラジオをするから聞いてくれ、なのか
映画では理由の説明が全くなかったから、ラジオを当たり前のようにするのが唐突で異様に感じられた。
必ず聴かないといけないものでもないし、寝るからおやすみ、と言って切らなくても
ずっと声を聞きながら眠りの世界へ入っていける、
そんな不眠症の理解があるお互いだからこその提案だったのに。

 

観測会までの描写が薄い

観測会が中止になった時、漫画ではそこまでの描写が丁寧だったから
丸太の言葉に泣きそうになったが、映画では正直「またやればいいじゃない」という気持ちで
男泣きに泣く理由に納得がいかなかった。

 

恋愛をメインにしてほしくなかった

キスをしても照れて倒れ込んだりガッツポーズをしちゃったり
というもはや長年連れ添った夫婦のような2人が良いのであって、
普通にムードを作っていちゃいちゃされるのは違うのだ。
どうあっても大人たちが心配する間違いは起きそうにない2人だから良いのに。
伊咲のおばあちゃんの家に学校のみんなが来ないのもがっかりした。
一人ぼっちだった丸太がみんなに囲まれていて、すごいと言われて、
親友の受川にはわかってなにかあった?と訊く、
そんなやり取りこそ重要だと思うのだが。
今の丸太のことを「カッコいいガンちゃんが戻ってきた」という、
自己肯定感の低い丸太のことを昔からちゃんと知っていて恰好良い人だと思ってくれている
受川との2人だけのシーンが無いのは惜しい。

さらわれてほしい、と言われてきゅんとするんじゃなくて
いやっほー!って飛び跳ねる伊咲が良かった。
映画はちょいちょい生々しく感じてしまった。
恋愛ムードじゃなく信頼しあっている2人なのが、君ソムの
というよりはオジロ先生の描く恋愛の良いところだと思うのだが。

 

大人たちが微妙

細かいことだが、丸太の不眠症のことを先生の方から訊くのと父親から話すのでは
全く意味が違うのに、どうしてそんな小さなところまで変えてしまったのだろう。
漫画の倉敷先生は好きなのに、映画だと不躾に感じる。

映画の伊咲の両親は、自分の娘が約束を反古にして部活合宿を台無しにするのだから
君たちが丸太に謝るべきなのになぜそんなに居丈高なのか謎でしかなかった。
漫画の伊咲は両親に車に乗せられた後すぐ降りて、丸太に大丈夫だと伝えに行くところが恰好良かったし、
両親も「娘にも非があった」という言葉は出てくる。
伊咲のスマホを取り上げられ、過保護な親でちょっとどうかとは思うものの
丸太はみんなに祝福されながら入選を知るし、伊咲からも天文台で直接おめでとうと言ってもらえる。
映画では伊咲がまるで合宿旅行のせいで具合が悪くなったようになり
(だからこそ後悔するなと伊咲が言うシーンがカットされているのだろうが)
インソムニアよりも心臓病がクローズアップされ
不穏な空気の中被害者ぶる伊咲の両親に平身低頭で入選した写真を届ける丸太という
原作とはかけ離れたお涙頂戴展開に持っていかれて噴飯物である。

 

まとめ

初めにも書いたとおり、
自分は君ソムの、不眠症で辛かった夜が一緒にいることで辛さが減り
したいことがたくさん見つかって充実していく2人の人生描写が好きなのであって、
心臓病を抱えたか弱い少女に恋をした不眠症の少年の性青春恋愛映画が見たかった訳ではない。
監督・脚本家との解釈不一致という感じだろうか。
面白くないことはないのだが、がっかりしてしまうところが多かった。