ネタバレあり

約束通りえみりのお母さんと会ってくれる槙生ちゃん、すごい。自分なら会う理由がないと思ってしまいそうだ。
えみりのお母さんの話を聞いて、彼女は彼女で朝の両親と付き合いがあり、亡くなったことで影響を受けているということに気がつけた。
序盤では嫌な人かと思っていたが、
卒業式にも入学式にも来てくれないなんて大丈夫なの?と思うのは、それは彼女が母親であり、
槙生も朝の母親代わりになると決めたと思っていたからだろう。

笠町くんがクラウドで記録しておくのを提案してくれるの、とても頼りになる。槙生ちゃんの性格や合理性をきちんと考えてくれている。

朝は槙生ちゃんを片付けられないというが、一人で暮らしていてずっと家にいる仕事で仕事も忙しくて、となれば部屋は散らかるし片付けなくても死なないから、掃除なんて二の次になりがちだと思う。
えみりが「発達障害じゃないの」と言うのが無遠慮だ。
朝は朝で、親の前で恋愛話を始めるのも怖い。

朝の立場のことを槙生ちゃんが
「彼女が親から受け取るはずだったものはどうしたって得られない」
「孤独を絶望を表す言葉をまだ知らないというのは一体どんな苦しみだろう」
「今までもらったものでやりくりしていくしかない」
と言っているのが、どの言葉も美しく哀しく
本当に朝の親になって育てることはできないけれど
なんとか守りたいと思ってくれているのだ。

多分朝は自分では気づいていないけれど、母親から
普通普通と”洗脳”されてきて、自分の思う普通からはみ出した人を「変」と悪気なく断罪してしまうのだろう。

えみりのお母さんは本当は仕事を続けたい人だったというが
「どの選択をしてもきっと後悔はしたしいいの」
と言うのがなんだか良いなと思った。

笠町くんが鬱になって、泣いて動けなくなるような
辛い時期を過ごしていたとは。
そういうことも槙生ちゃんに話せたというのは安心した。
自分の惚れた女は誰からもモテると思いこんでいるところが可愛いし、
それについて
「あんなめんどくせーやつ一部の好事家しか惚れねーよ」
と言う醍醐さんの愛に溢れた突っ込みも面白かった。
あの珍獣はめったなことではなつかない、好事家の自覚を持てには笑った。

手書きのものを読むのにはエネルギーがいる。
すごくわかるなと思った。
あとは隠してないのに「隠してるけど桜でんぶが好物」
なんていう母親の勘違いが微笑ましい。
自分も里帰りしたとき必ず「あんた好物やろ」
と唐揚げを作ってくれて、私唐揚げ好物だったんだ。笑と思ったものだ。
活字中毒なので、目の前にあると読んじゃうというのも共感。

姉が朝宛の手紙のように日記を書いていたことについて
「書くのはとても孤独な作業だから」
「これから5年も生きていたら、渡すつもりで書いていても20歳になったとき渡さない選択肢もあったと思う」
と思っているところが槙生ちゃんらしいし
本当にそのとおりだと思う。
そうなると、故人の為にどうしてあげるのが正解なのか。
いつ朝ちゃんに教えるべきなのか。
真摯に考えてくれているとしか思えないのだが
隠し事をされてむかつくと朝が思ってしまうのは、
子供扱いされた気持ちがするからだろうか。

朝のお母さんが内縁の妻だったことを知ってしまうと
朝の名前に込めた願いもまた違った印象を持つ。
勝手に部屋に忍び込んで日記を探し当て、読んでしまう朝。
母は母という存在ではなく自分と同じひとりの女で
不安や迷い、悩みも当然あるというのは子供の時には気が付きにくいことだと思う。

朝ちゃんを探すの手伝って、と言われて駆けつけてくれた笠町くんが
思ったより簡単だったろ、人に頼るのと言うのがさりげなくて良い。
弁護士の先生も来てくれて、大事になって恐縮する槙生ちゃんに「大事にした方が良い」と言うのも、
笠町くんが舌打ちされた話を聞いて丁寧な口調で
父親に抗議したい、対話すべきところなのに
と怒ってくれるところがすごく良かった。
子供と言うのはたびたび大人を試したがるから、
何度もやっているならまた違うかもしれないけれど
初めてのことだし大事にして心配しないと
それはまた新しい傷になってしまう。
それに槙生ちゃんも言っているが、親の悪口は中々言ってもらえない。毒親に悩まされて育った人によって、親の悪口を言ってくれる人は救いだと思う。

朝の憎まれ口に、大事な友人だと思ってる
そう思われるのは悲しいと言う笠町くんの対応が大人で恰好良い。
私は朝みたいに我儘も言えないし、槙生ちゃんみたいに冷静な対応もできない気がする。
「ここで私を傷つけようとしても何にもならない」
と怒らずに言い、
「あなたの有り様を見ているとあなたは愛されて育ったのだろうなと私は思う
もしそうなら姉も幸福だったんじゃないか」
と言えるところが、本当に槙生ちゃん素敵な人だ。
言葉選びがとても素敵で、彼女の書いた本を読んでみたくなる。

何故朝が怒っているのかわからず、
八つ当たりのように思えていたのだが、
槙生ちゃんの小説読んで
なぜ誰も無くしたことがないのにこんなものを書くのだろう
こんなものを書くのになぜわたしを真に理解しないのだろう
なぜわたしの欲しい嘘を知っているのにたとえその場しのぎでも決してくれないのだろう
と思うところで、あぁそうだったのかと思えた。

悲しみを共有できない、一人一人違うから
100%同じものを分かち合えないのだから、
槙生ちゃんの態度はどこまでも誠実だと思う。
朝ちゃんがやっと泣くことができてよかった。