ネタバレあり

槙生ちゃんエッセイを連載し始める。
朝ちゃんのことを犬のような、として
これまで群を作らずに暮らしてきた自分の戸惑いを綴る。
若い犬に影響を与えてしまうことが怖い
というのが、槙生ちゃんの正直な気持ちだろう。
犬にたとえていて良いのだろかと思ったら
途中で「犬というのも悪いから」と文言が出てきて
ふふっとなった。

じっくり読んでいて、「これ私のこと?」と
相変わらずストレートな朝ちゃん。
別に犬に例えられたことは気にならない様子だ。
読むな、と言う槙生ちゃんの気持ちがわかる。
自分なら確認せずにツイッターをブロックすると思う。

朝ちゃんの母親の日記のシーンで、
「あなたが二十歳になったときにあげようと思って書き始めた」
という冒頭の文の引用があるのだが、正直気持ち悪い。
そんな物をもらって喜ぶ子供は希少だと思う。
母親の自己満足でしかない。

槙生ちゃんのお母さんが水素水や酵素を買いだめて
詐欺被害が出ているからと前に槙生ちゃんが話しても
「効くのよ」と聞く耳持たないところが
あるあるだけれどとてももやもやした。
槙生ちゃんが「いつからか鈍くずるい人になってしまった」
と母親のことを評しているところが、
共感もあるし悲しくもあった。
「実里は気配りがきいて槙生は自立している」
と言っていたのにそのうち
「実里は自主性がないし槙生は薄情だ」
と言い換えるというのがすごくリアルに感じる。
あるよなぁ、いるよなそういう親、という気持ち。
朝の両親が亡くなった時、自分が確認するのが嫌だからと
「あなたに両親の遺体を見せた。わたしはそれが絶対に許せない」
という槙生ちゃんがまっすぐでとても好きだ。
すごく泣いていたからおばあちゃんはお母さんが大事だったんだ、と思い
遺体の確認をさせられたことも気にしていない
朝ちゃんも朝ちゃんで、子供らしい素直さがあると思う。

お母さんはどんな人だったのだろうという朝ちゃんに
多分話そうと思えば槙生ちゃんはいくらでも話せる。
でも、
「あまりわたしの言うことに影響をうけないように。
おかあさんのことを好きなままでいなさい。
だからあなたにわたしの主観でしかない話はしない」
と決めている槙生ちゃんがとても恰好良い。
はっきりしていて素敵だ。

邪魔だから本当にいらないのに、持っていけといい
断ると「まったくあなたは」と怒る母親、本当にリアル。

朝ちゃんに槙生ちゃんが
「不思議だな。あなたは人から好かれることにてらいがないね」
と言うシーンが印象的。

ちょうど朝ちゃんがでかけている時にえみりちゃんがやってくる。
えみりちゃんも結構物怖じしない子だ。
今回は事前に聞いていて自分が忘れただけだから
ときっちりえみりの対応をする槙生ちゃんが好き。
むしゃくしゃしてケーキを焼くの、自分もよくやる。
お茶を出すのも、出せるものをすべて教えてどれが良いかえみりに選ばせる槙生。
えみりちゃんを子供扱いしていない感じがするし、
えみりにしたらそれに戸惑っているように思える。
結婚云々無邪気にプライベートな話に突っ込むのも子供の特権だろうか。
「してら普通、してなかったら変ってことはないですよ」
と敬語で誠実に回答するところが素敵だし、
今友達で彼の信頼をかつて自分が裏切った、
相手が優しいから友達でいられている
と笠町の話をするのが、やはり大人ぶっていないというか
ひとりの女性として対応しているのだろう。

弁護士の塔野との会話で、サクサク虐待とか、という言葉を自分から出す槙生ちゃんがすごく好きだ。
「物語を全然必要としない人っていうのもおいでなんですよね」
と言うところも、その後えみりに映画つまり物語を渡そうとするところも良い。

朝ちゃんは、槙生もお母さんも毎日家にいるから休み、
と言ってしまう無邪気さが幼い。
その感覚では、毎日他人が家にいる辛さも慮ることもないのだろう。
居候の分際で、お礼に片付けるくらいしても良いのに
それどころか「なんでこんなこともできないの」
と言ってしまうのも、悪い意味であの母の娘という感じ。
「ふつう」と言う言葉自体が押し付けだ。
怒り黙らせるのではなく、傷つき、かつ
「わたしが何に傷つくかはわたしが決めることだ」
と言う槙生ちゃんは本当に誠実な人だ。
子供だから仕方ないかもしれないが、「ふーんごめん、なんで?」という謝り方が軽すぎる。

自分が好きでやっている普通のことを「意識高い」と言われるのは、馬鹿にされている感じがする。
笠町くんの手を見てむらっとする槙生ちゃんの気持ち、なんだかわかる。
笠町くんのことを今でも嫌いではない槙生ちゃん。
それを聞いて焦りながらそりゃどうも、という笠町くんがなんだか好きだ。
好きと思うのは友人としての笠町くんとの関係を汚すことになる、自分は人に助けてもらう価値がない、と思う気持ちはちょっとわかる。
笠町くんがよかれと思ってしたことを拒まれて
それにずっと怒っていて、でも、やっぱり頼ってほしい。
「弱いきみを望んでるとかじゃなくて」という言葉を付け加えてくれるところが、やっぱり笠町くんも誠実だ。

価値がないという槙生に「なんでそんな悲しいこと言うんだ」と言う笠町くんも、
その笠町くんを見てごめん、と頭をわしわしする槙生ちゃんもとても愛おしい。
いろんな気持ちが混ざり合って、大切にするというだけのことが難しくなることは、残念だけれどよくある。

槙生ちゃんは笠町くんが良い匂いがすると言うが、遺伝子は自分と違うタイプを選ばせようとするから、好みの男性を良い匂いを思うという研究結果があったはず。
昔は若さやなんかが邪魔をしてうまくいかなかったかもしれないが、お似合いの2人に見えるのだが。