最近では、老人に席を譲らない若者など珍しくもないが、別に今に始まった事ではない。過去の新聞の投書欄にくまなく目を通すマッツァリーノ先生は衝撃の事実を提示する。
大正13年10月7日付の読売新聞の投書欄にひとりの老婆の投書が載った。「最近の若者は本を読むふりをして席を譲らない」。今と全く変わらない大正時代の状況に驚くが、本当に恐ろしいのは、この後の展開。上記の投書の2日後、何と若者側が反撃の投書に出る。「席を譲ってくれないとグチる七十婆さん、大体からあなた方は図々しすぎる」で始まり、面の皮が千枚張りだの臭い匂いだの罵詈雑言を浴びせたのだ。恐ろしいのは、ここで終わらないところ。この後、一気に高齢者の読者が猛攻撃に出るかと思いきや、「婆さんは図々しい」と罵った若者に同意する投書がその後、2通も掲載されたという。

自由といえば自由な時代だが、「君たち心が少しばかり荒んでないかい」と心配になるやり取りである。確かに図々しい高齢者はいるが、デリカシーのデの字も存在しない叩きっぷりである。昨今、同様のことを若者がネットに書き込んだ日には、学生ならば大学や内定先を、社会人ならば勤務先を特定されたりと大変な騒ぎだろう。

このように、マッツァリーノはいつものように庶民史の欺瞞を暴き、「人は進歩していないし退化もしていない。昔も今も道徳心のあり方は大きく変わらないし、見て見ぬふりをしていたのも今と同じ」と一貫して主張する。

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